― 峠 ―

夜の風を全身に浴びる。

湿気た葉と洗剤のにおい。

数えきれない灯りの群れに

僕は一人、隣にいたあなたを忘れ、呼吸することの難しさを思い出す。

名もなき人々。走る命。

止まらない時間の上で朝が来るまで踊り続ける。

このままずっと、風になれたら。

君を忘れて、僕を忘れて、名前も消えて、

風になれたら。



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